記憶障害 -病巣別-
記憶=海馬病変のイメージですが、そうとも限りません。
記憶に関わる脳の部位として、側頭葉内側面(=海馬)、間脳(=視床)、前頭葉(前脳基底部を含む)が想定されています。
今日はそれぞれの病巣による記憶障害の特徴をまとめます。
▷側頭葉内側面(海馬、海馬傍回、扁桃体など)
想定される原因疾患:海馬の脳血管障害、ヘルペス脳炎、低酸素脳症、頭部外傷など
特徴:前向性健忘、逆向性健忘、病識は概ね保持、作話少ない、病巣により意味記憶障害
▷間脳(視床、乳頭体など)
特徴:前向性健忘、長期にわたる逆向性健忘、作話、見当識障害、病識欠如、病巣により前頭葉症状
▷前頭葉(前脳基底部を含む)
想定される原因疾患:前交通動脈瘤、前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血、頭部外傷など
特徴:前向性健忘、逆向性健忘、見当識障害、自発的な作話、病識欠如、個々の事項は覚えられるが関連付けて記憶できない、手がかりがあると思い出しやすい、病巣により注意・遂行機能などの前頭葉機能障害
記憶に関する神経心理学的検査
S-PA標準言語性対連合学習検査、三宅式記銘力検査、Rey複雑図形検査、Benton視覚記銘検査、WMS-R(日本版ウェクスラー記憶検査)、RBMT(日本版リバーミード行動記憶検査)
記憶障害に対するリハビリテーション
①環境調整
見当識サポートシートなどで、日時、場所、入院理由を掲示。注意事項などはメモを置いておく。物の置き場を決めるなど。
②代償手段(メモリーノート、スケジュール表、アプリなど)
早期からメモリーノートを導入、本人が難しければセラピストで記載。スマートフォン使用できる患者であれば、アプリでスケジュール管理、リマインダー使用。
③内的ストラテジーの活用
視覚イメージ法、PQRST法など。
④学習法
誤りなし学習(エラーレス)、間隔伸張法、手がかり漸減法など。
発語失行 中心前回と皮質下
運動性失語には発語失行を伴うことが多いです。
主に責任病巣は中心前回といわれています。
が、被殻出血など皮質下病変の運動性失語でも発語失行を伴うことがあります。
中心前回タイプと皮質下タイプの発語失行には違いがあります。
〈中心前回タイプ〉
いわゆる教科書に記載されている発語失行。
顕著なプロソディー障害
一貫性の乏しい構音の誤り +
発話開始困難 +
発話速度低下 +
音の連結不良 +
※自発話よりも復唱で誤りやすい
〈皮質下タイプ〉
顕著な構音の歪み
一貫性の乏しい構音の誤り -
発話開始困難 -/±
発話速度低下 -/±
音の連結不良 -
※自発話と課題発話に乖離のない場合と自発話でより重度になる場合がある。
Gerstmann症候群
左角回を責任病巣とする①手指失認②左右失認③失算④失書の4症候からなる症候群。
4症候全てが揃って出現する頻度は少なく、独立していたり部分的な組み合わせで出現したりする場合が多い。
①手指失認
身体部位失認の一症状。手指の選択障害、呼称障害が含まれる。
②左右失認
患者自身あるいは検査者の体の左右を区別できない状態。
口頭で左右を問うたり、「右手で左肩を触って下さい」などの口頭命令課題で調べる。
③失算
失算の原因として以下が考えられる。
(1)数字の失読失書
(2)視空間的失計算(USNを伴う)
(3)作業記憶低下による演算操作そのものの障害
Gerstmann症候群における失算は(3)による失演算だと推測されている。
④失書
自発書字、書取、写字における障害。
角回、縁上回は書字機能を有し、純粋失書の責任病巣である左上頭頂小葉も近い。
実際にGerstmann症候群の4症候がそろった患者さんを見たことがありますが、手指失認、左右失認は比較的早期に消失しました。
今まで、スクリーニングで手指失認に関しては呼称課題のみしか実施してなかったので、手指の選択課題も取り入れてみようと思います。
視覚性失認-3タイプの違い-
視覚性失認について
視覚性失認は3種類に分けられる
①統覚型②統合型③連合型
ざっくりだと重症度としては重→①→②→③→軽
①統覚型視覚失認
対象の形態認知×
→図形の異同弁別×マッチング×模写×
病巣:両側後頭側頭葉
②統合型視覚失認
対象の形態認知が一部可能、正常とはいえない
→図形の異同弁別△~〇マッチング△~〇模写△~〇(時間がかかる)
病巣:両側or左側の後頭側頭葉
③連合型視覚失認
対象の形態認知は成立しているものの何かを同定できない。意味と結びつかない。
→図形の異同弁別〇マッチング〇模写〇 呼称×カテゴリ分類×
病巣:両側後頭側頭葉or左側の後頭側頭葉内側面
実際の臨床だと、弁別や模写のできる/できないがはっきりしなくて、タイプ分類に迷うのですが、、、。見分けるポイントなどありましたらご教授ください。